コードスイッチングとトランプ氏

米大統領選、トランプ氏が当選確実となったことに驚きを隠せない各国のメディア、その様子を書き立てるニュース記事を横目に、ちょうどいま読んでいるところであった本、

人を惹きつける「ことば戦略」ことばのスイッチを切り替えろ(研究社、2009年)

に目を向ける。キャッチ―なタイトルになっているが、社会言語学者の東照二先生の本である。この本は徹頭徹尾、コードスイッチングについて論じられている。コードスイッチングとは、日本語と英語など、全く異なる二つの言語を切り替えながら話すことであり、例えば日系人がお互いの仲間意識を確認するために、それらを一文ごとにスイッチしながら話すといった事象を表すのに使われる。

著者は、このコードスイッチングの概念の適用を全く異なる言語間だけではなく、漢語と和語、主体と客体(川端康成の「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」等にも見られる)のスイッチなどにも広げていく。

この本の中でスピーチの名手として語られているのが、小泉元首相とオバマ現大統領である。著者は聞き手を惹きつけて離さない魅力というのは、コードスイッチングによるものに他ならず、動的な、驚きの要素が不可欠であるとしている。

小泉元首相のスピーチの中のコードスイッチングとしては主に、トピックについて言及している。年金の話から、「まあ、大阪といえばね、まず思い出すのが、大阪城ですよね」ということばに変わり、激動する戦国時代、そしてその時代を生きた女性たちの話へとスイッチしていく。話に一貫性がないようで、それは政治という少し抽象的で、難解な情報中心の世界から、誰もが知っている歴史上の具体的な人物の話、情緒的な話にもっていく、というわけだ。

オバマ大統領のスピーチ(引用されているのは就任演説であった)においては、アメリカの歴史を振り返り、困難にぶつかったときの奴隷廃止論者たち、奴隷たちがいったことばは、yes we canであった、という具合に、歴史上の例をあげながら、主旋律であるyes we canを繰り返していく、従来の悲観主義、現実主義から楽観主義へのスイッチ、ということである。

ここまで来て私は、今回の米大統領選のトランプ氏の勝利について、なんらかのコードスイッチングをあてはめずにはいられなくなった。勝利といっても、ワシントンやニューヨーク、カリフォルニアなどの都市部の州ではクリントン氏が選挙人を勝ち取っていることを考えると、Brexitの時と同様に、地方(真ん中のあたり)の人々の間での根強い人気、ということになるが。

著者のいう驚きの要素についていえば、政治家としてはありえないと聞く者がみな信じて疑わない横柄で大胆、過激な発言は、歓迎される種類のものではないかもしれないが、驚きに他ならず、またそのため大きく、何度もメディアに取り上げられてきている。テレビの司会者として活躍していた時期もあり、こういった広報戦略は熟知していたであろう。これは政治家のふるまいとして型破りであり、一般の人が考えている標準からのスイッチであると言える。

また、世界平和を掲げている(少なくとも就任演説の時点では「世界に対し義務を負っている」旨を強調していて、「核兵器廃絶演説」においてノーベル平和賞も受賞している)オバマ大統領から、勝利宣言において「アメリカの国益を最初に考えた上で、他を平等に処する(原文は”I want to tell the world community that while we will always put America’s interests first, we will deal fairly with everyone, with everyone.”)」とさえ述べるトランプ氏はやはりこの点、世界に対する態度と立ち位置においても、オバマ大統領からの大きなスイッチと言えるのではないか。そしてそのスイッチは現在の暮らしに不満を持ち、かつ変える術をもたない、また持ちうると思えない層にとって、非常に魅力的な変化であり、自分たちの生活を大きく変えてくれる可能性に映ったのではないか(日本など諸外国の多くの人や米国の一定の層の人にとってはこれはリスクに他ならないかもしれないが、リスクというのは金融の世界ではそもそも振れ幅のことである)。

…とここまで書いてみたところでふと思うのは、衝撃の変化の理由を捉え、その行く末を憂いたとしても、米国民でもなく、政治家でもない、一般人の私が、この件に関し今すぐできることはこれと言ってないのではないか、ということ。カナダの移民局のウェブサイトが米国からのアクセスによりダウンしたとのことだが、島国である日本が海を渡った同盟国の変化による影響を逃れ、近隣諸国にすぐに移民しよう、というのもあまり現実的ではない。

ただ、そんなときに、確実に役に立つだろうと言えるのは、結論をここにもってきてしまっているようで恐縮だが、語学学習である。なぜか。とりわけ、ビジネスにおいてほぼ国際的な共通語になっており、話者人口の多い英語は、万一何らかの理由で移民するようなことになってももちろん役立つし、それ以前に、円高が予想される経済情勢において、自分の事業で他国との取引を少しでも有利に運べるように交渉していくために、あるいは不透明な世の中においてより広く情報を収集するために、非常に有効だからである。

本当に必要に迫られたとき、確かにその焦りは語学学習に有利に働くことが多いのだが、それはとても苦しい戦いになる。いろんな研修の現場を見てきて思うのは、語学については、本当に必要になる(私生活においてもビジネスにおいても)、できないと生きてはいけなくなるような時がくる2年ほど前には始めておくのがおすすめだということだ。英語であれば、学生時代の文法の復習に3~6か月、残りの半年ほどかけて実践的なビジネスのフレーズなどを学んで、実務レベルまでもってくる人も少なくはないのだが(少なくとも大手企業の研修のレベルにおいては)、必ずしも英語の学習を人生の優先順位のトップにもって来られる人ばかりではないだろうし、寄り道しながら気楽にできた方が良いには違いない。

語学習得に何より大切なのは継続、日々の学習である。私自身、現在新しい言語を学習中であり、肝に銘じていることでもある。案ずる気持ちを何かしら前に進んでいくパワーに変えて、日々過ごしていきたいものである。

 

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ビジネス英語の学習を始める人にとって有用だと思える一冊、筆者の著書を最後にご紹介する。とりわけ、基本的な英文法はマスターしていて、これから会話に入っていきたい(TOEICで言うならば500点以上)、ビジネス英語での会話やEメールのフレーズを学んでいきたい、という人におすすめである。

ビジネス英語のツボとコツがゼッタイにわかる本 上田怜奈著(秀和システム、2016)

(新宿紀伊国屋等、大型書店に在庫あり)

 

 

 

 

 

 

 

 

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